天理人欲

今まででいちばん辛かった仕事

 先日、とあるメディアから取材を受けました。
その時の質問に「今までで一番辛かったお仕事は何ですか」と尋ねられ、真っ先に思い浮かんだのが都銀に勤務していた時の「平成バブルの債権回収」でした。

 21世紀を目前に控えていたころ、私が勤務していたメガバンクはバブル崩壊により多額の不良債権が生じていました。不良債権を償却し資産内容を健全にするため、3行のメガバンクが合併し事業を再構築することが急務となっていました。それらはすべて合併後に他の2行を押し退けてイニシアチブを取るための重要な課題であったのです。

 当時の私は、私が入行する前から貸し付けてあった債務者さんのところに通い詰めることが日課となっていました。
 何度も何度も債務者さんのところへ伺い、定期券の表面の印字が擦り切れて消えてしまうくらい通い続けました。
 特に北陸方面が多かったので、革靴の中に入ってくる雪を気にしながら、日暮れの早い日本海側の街を歩いていました。
 先日の取材を受けた日はちょうど寒波のあった日で雪がちらつき、いっそう当時の記憶が呼び覚まされやすいシチュエーションになっていたのかもしれません。

 不良債権がなぜ生じるのか?

 なぜ不良債権は生じるのでしょうか。
 すべての発端は人欲だと思います。
 当時の上司が「天理人欲」をわきまえない結果がバブルを呼び起こし崩壊させたと言っていました。

 しかし、歴史は繰り返します。
 今年から来年に至ってはその典型的な一年となりそうです。
 春、コロナが広がり始めた際に株価は16,000円台まで急落したもののいまや多くの専門家が30,000円台まで達すると言っています。ビットコインも史上最高値を付けました。
  実は今年の4月、株の勉強をしようと受講したセミナーで
 「半世紀に一度の株高が来る。ぜひ今のうちに株を買いなさい。最低でも300万円は突っ込みなさい」
と言われましたが、私はそもそも「株で稼ぐ」つもりはなく、大したお金は突っ込まないで「セミナーの実技学習」の一環と割り切って買いました。最近、「どうせ買うならもっと買っておけば良かったのに」と同じセミナー受講生に言われましたが、翻って考えるに、この株高はご承知のとおり実体経済とは大幅に乖離しています。

 コロナ禍による財政刺激策の組み合わせによって溢れ出てきたジャブジャブの行き場の無いマネーが金融市場に流れていっているだけなのです。来春までは、まだ大丈夫かも知れません。
 ワクチンができる(できた)期待値もあるでしょう。でも、その先はまったく見え ません。「天理人欲」という言葉が重くのしかかってきます。