できることなら・・・

 京都に生まれ育った人間にとっては欠かせない薯蕷まんじゅう。その薯蕷まんじゅうの名店「京華堂利保」さん。弊社の管理物件の並びのお店で、私の幼少期からの馴染のお店でした。美しい皮に丹波産のつくね芋など素材にこだわり、手間暇かけて丁寧に作られたそれは、もちもちしながらもしっとりとした食感を楽しめました。

 有名なのは武者小路千家の13世家元の助言で生まれた麩焼きのお菓子「濤々」や、与謝蕪村の俳句にちなんだ羊羹を挟んだ三笠饅頭のような「時雨傘」。私はそれに加えて、夏に楽しめる「京あゆ」を冷やして頂くのが大好きでした。

 その京華堂利保さんが1月31日、明治36年から118年間のれんを守ってきたお店を閉められました。
4代目の今のご主人のお嬢さんが後を継ぐつもりでいらっしゃったそうですが、急逝されたことなどもこのたびの閉店決断への理由のひとつとなったと報じられていました。


 新型コロナウイルスの流行で中小事業者が大きな岐路に立たされています。東京商工リサーチの発表では、2020年に休廃業に追い込まれた企業は過去最多の5万件に上ると言います。経営者の高齢化や後継ぎ不在の後継者難にコロナ禍が廃業への選択を早めさせました。コロナ禍の重圧がいつまで続くかわからない状況で、将来展望は描きにくく、「私の代で店をたたもうか」と考えるご高齢の経営者は少なくありません。


 京華堂利保さんの武者小路千家家元が好む「濤々」は、祇園で300年続く老舗和菓子店「鍵善良房」さんが、そのレシピを受け継ぐこととなりました。
 できることなら、これまで私たちの地域の経済や雇用、文化や生活を支えてきて下さった先達の経営者たちの財産や理念を何らかの形で、後を継ぐ誰かに承継できないかと、常日頃から私は思いを巡らせています。